鸕野讚良皇女にも寄り添う「丹生都比売」☆


≪シェキナー≫


丹生都比売は、草壁皇子にだけではなく、
また、鸕野讚良皇女にも寄り添っています。


ヴィジョンで、鸕野讚良皇女の孤独を
草壁皇子に垣間見せることによって。

すると急に辺りがしんと静まり返り、
耳の奥で何かがじりじりと音を立てました。
あの仕舞い込んだ古い装束のようなにおいが
鼻孔の奥をつきました。


草壁皇子が目を開けると、
風景がなんだかいつもと違っているように見えました。


おかあさま達の御座所の奥を覗くと、
おかあさまが、たったひとりでこちらに背を向けて
じっと動かずに端坐しておられるのが見えました。


よく見るとおかあさまはおひとりではなく、
何かと向かいあっておられる様子です。
簾の向こうにそれ影が見えます。
大きな大きな人形(ひとがた)が、
うすくまっているような影が。


それがやはり大きな大きな蓑笠で顔を隠して
おりましたが、草壁皇子にはそれが何であるか
すぐわかりました。


おかあさまが鬼に喰われてしまう


草壁皇子は危うく大声をあげるところでしたが、
おかあさまはその恐ろしいものを前にして、
まったくたじろぐ様子もありません。
何かお声のかけられない厳しい気配が伝わってきます。


それでは、これが私たちに憑いているものなのだ。
おかあさまはあれと対峙なさっている。
あれを封じていらっしゃる。
あれが動き出さぬように


草壁皇子は、そのとき、おかあさまの
恐ろしいほどに真っ暗な、底知れない孤独の淵を
覗いたように思いました。


おかあさまは、きっと気の遠くなるような年月、
ああしておられるのだ


(梨本香歩「丹生都比売」)