泉の不思議☆



昔、一人の少年がいました。

貧しいきこりのひとり子で、森の孤独の中で育ちました。

両親のほかには、わずかの人しか知りませんでした。

体が弱く、肌は透けるようでした。

その目は、深い精神の不思議を秘めていました。

少年のまわりには、わずかの人しかいませんでしたが、友だちにはことかきませんでした。

近くの山々に太陽が黄金の光を投げかけるとき、少年のもの思いにふけった目は、霊の黄金を魂のなかに吸い込みました。

少年の心は、朝の太陽のようでした。

けれども、黒い雲が太陽の輝きをさえぎり、山々が暗い気分に覆われるとき、少年の目は曇り、心は悲しみに満ちました。




このように少年は、自分の狭い世界の、精神の動きに夢中でした。

自分の体と同じく、周囲の世界は親しいものでした。

森の木々や花々も、少年の友だちでした。




花冠や萼(がく)や梢から、精霊たちが話しかけました。

そのささやきが、少年には分かりました。

人々には、生命がないと思われているものと、少年の魂が語り合うとき、秘密の世界の不思議が、少年に打ち明けられるのでした。




夕暮れ時に、愛する息子がいないのに気づいて、両親が心配することがよくありました。

そんなとき少年は、岩から泉が湧いていて、水のしずくが石の上でこまかく飛び散るところにいました。

魔法のようにキラキラと輝く色が戯れ、月の光の銀色の輝きが、水のしずくの流れのなかに映るとき、少年は何時間も岩の泉のところに座りこんでいました。

少年が見ていると、水の動きと月の光のなかに、さまざまな形が精霊のように現れてきました。

その形は、三人の女の人になりました。

この三人の女の人は、少年の魂が聞きたいと思っていることを、語ってくれました。




あるなごやかな夏の夜、少年がこの泉のまえに座っていると、三人の女の人の一人が、色とりどりの何千ものしずくの粉を、二番目の女の人に渡しました。

この女の人は、しずくの粉から銀色に輝く杯を作り、それを三番目の女の人に渡しました。

三番目の女の人は、この杯に月の銀色の光を満たして、少年に渡しました。




夜、夢のなかで、少年はその続きを見ました。

怖ろしい竜が、この杯を少年から奪ってしまうのです。




この夜ののち、少年はもう三度だけ、泉の不思議を見ました。
そのあとは、月の銀色の光に照らされた岩の泉に、もの思いに耽って座っても、三人の女の人は、やってきませんでした。





三度、三百六十週が過ぎ去ったとき、少年はもう大人になっていて、両親の家を出て、見知らぬ町に引っ越しました。
そこで、ある夜、彼はつらい仕事に疲れて「これから先、何があるのだろうか」と、考えました。




突然、彼は岩の泉のことを思いました。
彼は再び水の女たちを見、今度は、女の人たちが話すのを聞くことができました。




一番目の女の人が言いました。
「さびしいときは、いつも私のことを考えなさい。
私は人間の魂のまなざしを、エーテルの彼方と星の彼方に誘います。
私を感じようとする者に、わたしは魔法の杯から、命の希望の飲みものを差し出します。」




二番目の女の人が言いました。
「人生の勇気がなくなりかけたときは、私のことを忘れないでいなさい。
私は人間の心の欲求を、魂の奥底と精神の高みに導きます。
私のもとに力を求める者に、私は魔法の小槌で、人生を信じる力を作りあげます。」




三番目の女の人の声は、このように聞こえました。
「人生の謎のまえに立ったとき、あなたは精神の目を私に向けなさい。
私は思考の糸を、人生の迷路と魂の深みのなかで紡ぎます。
私を信頼する者に、織物台の上で、人生の愛の輝きを織ります。」




その夜、夢のなかに、その続きが現れました。
恐ろしい竜が彼をぐるりと取り囲みました。
けれども、竜はそれ以上近づけませんでした。
昔、岩の泉で見、彼とともに故郷から見知らぬ土地に引っ越した女の人たちが、竜から守っていてくれるのでした。


ルドルフ・シュタイナー 泉の不思議」